第84回日温気物医学会「超高齢社会における温泉医学」
週末は温泉に行かれている方も多いことと存じますが、温泉療法医は学会や研究に費やすことも多いのが現状です。
平日昼間に、出張帰り、誰もいない露天風呂に入れるなどの特典もつきますが…。
あー、基本、医療関係者ではない温泉ファンの方にはつまらない話が続きます。
(すみません。温泉写真も今後載せていきます。)
今回は高齢者の未来が変わる、日本人の高齢者の入浴頻度とその後の認知症・うつ発症リスクについての発表についてお話ししたいと思います。
今、温泉巡りをされて、いくつもの温泉をはしごされているファンの皆さんは、将来、認知症や抑うつ傾向になるリスクが低いであろうという研究の中間報告、つまり、朗報のお知らせともいえるのですが、無関係かもしれないといえばそれまでです。
身近なご高齢者にすでに体現されている方もいらっしゃるかもしれません。
ちなみに、「日温気物医学会」とは「日本温泉気候物理医学会」の略です!
しばし、お付き合いいただけますよう、よろしくお願い致します。
概要
第84回日温気物医学会「超高齢社会における温泉医学」
目次
高齢化に伴う認知症増加対策が世界共通の課題
今回の学会では、千葉大学と、今一番旬な、露出の多い温泉療法医・早坂先生(東京都市大学)の研究チームによる興味深いデータが発表されています。
温泉に限定せず、高齢者の入浴頻度と認知症・抑うつ傾向発症との関連について日本人高齢者を対象とした日本老年学的評価研究(JAGES)の調査データを用いて縦断分析*を行い、その中間報告を今回の学会ではご発表されているのです。
高齢化に伴う認知症増加への対策が世界共通の課題となっている。1)
抑うつは高齢者の生活機能低下の原因の一つであり、その予防は公衆衛生上の重要な課題である。2)
2つの研究発表として、違う手法で分析されていますが、双方とも入浴頻度に関する縦断調査、つまり、同じ集団を数年にわたって追跡した研究の結果発表といえます。
入浴頻度の高いご高齢者の浴槽のお湯のように、時間と労力と研究費も湯水のように使われているということです!
必見です。
縦断研究では、同一の解析対象を一定期間継続的に追跡し、いくつかの時点で調査を実施し、変化を観察します。
入浴習慣と認知症発症リスクの関連を明らかにする1)目的と高齢者の浴槽入浴頻度と抑うつ傾向発症(以下、うつ発症)との関連を評価する2)目的の2010年から2016年にわたっての研究の成果報告の概要は以下になります。
夏、冬ともに入浴頻度が高いと認知症発症リスクが少ない可能性が示唆された。今後は、競合リスクを考慮した解析、年齢層別や1年以内の認知症発症リスク除外などの感度分析を行う予定である。1)
浴槽入浴頻度が高い高齢者では新規うつ発症が少ないことが示された。高齢者の浴槽入浴はうつ発症の予防につながる可能性が示唆される。2)
いずれかの遺伝的要因を持っていたとしても、入浴頻度の高い温泉ファンは健康寿命が通常の入浴回数の人より長くできるかもしれない、研究段階で中間報告としてはその可能性が高いということです。
日本人高齢者の入浴頻度とその後の認知症発症リスクの関連:JAGESコーホート研究
日本人高齢者を対象とした日本老年学的評価研究(JAGES)の調査データを用いて縦断分析を行った。1)
2010年に要介護認定を受けていない65歳以上の地域在住高齢者に自記式質問紙調査を実施し、2016年12月まで約6年間追跡した。
追跡可能だった54,539名のうち、2010年時点で日常生活に介助を必要とせず、「入浴頻度」の質問項目に回答のあった10,147名を解析対象とした。
入浴頻度は、「お風呂(浴槽の湯につかる)はどのくらいの頻度で入りますか。」と尋ね、夏と冬で分けた1週間あたりの回数として回答を得たのち、3群に分類した。
コックス比例ハザードモデル(生存分析の多変量解析)を用い、性別、年齢、教育歴、等価所得、生活習慣等で調整した。
【成績】追跡した10,147人のうち、1,004名(9.9%)で認知症を発症した。
夏の入浴頻度が7回以上/週群では0~2回/週群に比べて認知症発症リスクは0.72(95%信頼区間0.59-0.87)
冬では0.70(0.58-0.85)であった。
【考察】夏、冬ともに入浴頻度が高いと認知症発症リスクが少ない可能性が示唆された。
今後は、競合リスクを考慮した解析、年齢層別や1年以内の認知症発症リスク除外などの感度分析を行う予定である。
高齢者の浴槽入浴頻度と抑うつ傾向発症との関連—JAGES縦断分析
以下の研究結果報告は先ほどのものに比べて期間が短いですが、信頼性の高い調査といえます。
https://www.jages.net/
一般社団法人 日本老年学的評価研究機構
日本老年学的評価研究2010年度版、2013年度版の両質問用紙に回答した高齢者のうち、日常生活動作が自立し、2010年度調査時点でGeriatric Depression Scale(GDS)4点以下であった4,466人(男性2,159人、女性2,307人)を対象とした。2)
2013年度調査でのうつ発症(GDS5点以上)を目的変数、2010年度調査時点での浴槽入浴頻度(夏と冬それぞれ)を説明変数とし、共変量として年齢、性、婚姻状況、就労状況、等価所得、教育年数、治療中の病気の有無を用い、ポアソン回帰分析により解析した。
【成績】新規うつ発症は、夏の週0-6回で15.1%、週7回以上で10.8%に生じた。
多変量解析の結果、週0-6回を基準とした週7回以上でのうつ発症率比(95%信頼区間)は夏で0.84(0.71-1.00)、冬で0.77(0.65-0.91)であった。
【考察】浴槽入浴頻度が高い高齢者では新規うつ発症が少ないことが示された。高齢者の浴槽入浴はうつ発症の予防につながる可能性が示唆される。
まだ、これから研究が進む部分もありますが、温泉ファンは入浴頻度の多さによって寿命が延びていることが証明される未来は確実に近づいています。
※効能は万人に対してその効果を保証するものではありません。
本日は、我々、温泉療法医が普段見ている研究成果報告のごく一部をご紹介させていただきました。
これからも、温泉療法医としての目線で、健康づくりに役立つ様々な温泉医学情報をご紹介していきたいと思います。
セルフメディケーションの時代、ぜひ、日常にお役立ていただけましたら幸いです。
本日はご訪問・ご拝読頂き、誠にありがとうございました。
今後とも、よろしくお願い致します。
*横断研究と縦断研究 3)cross-sectional method / longitudinal method
発達に伴う変化を検討する方法として、横断研究と縦断研究がある。
縦断研究では、同一の対象者を一定期間継続的に追跡し、いくつかの時点で測定を行って変化を検討する。
長期にわたって行なうため発達の連続性や安定性を問題にできる反面、労力や費用は大きく、しかも大きな集団を追跡することは困難で、追跡期間の途中でも様々な原因で対象集団がさらに小さくなる可能性が高い。
繰り返し測定がなされることで検査に対する慣れや練習効果なども問題になる。
また双方共に、結果を解釈する際にはコーホートの要因を無視できない。コーホートとは、ある共通の特性をもつ集団を意味する。
横断研究では年齢の違いに加えコーホートの違いが結果に関与するため解釈が難しくなり、縦断研究の場合は特定コーホートのみを追跡しているためどの程度結果を一般化できるかが問題になる。
コーホート cohort
コーホートとは、ある共通の特性をもつ集団を意味し、一般的には出生コーホートを示す。それ以外には、職業や就職、結婚などがあり、それらのコーホート集団を追跡研究する方法をコーホート研究と呼ぶ。
ある継続的な調査を実施する場合、データには年齢効果と時代効果の他にコーホート効果が含まれ、それらの効果を区別しなければならない。
年齢効果は、加齢や老化によって成員に共通に生起する影響要因で、時代効果は自然環境や社会環境によって社会全体に及ぶ影響要因である。
コーホート効果は、それぞれのコーホートに属する人々に共通に見られる影響要因で、具体的には戦争経験や受験戦争など、コーホート特有の性質による影響要因となる。
1)第84回日本温泉気候物理医学会「超高齢社会における温泉医学」総会・学術集会
プログラム・抄録集
日本人高齢者の入浴頻度とその後の認知症発症リスクの関連:JAGESコーホート研究
The Association between Tub-Bathing Frequency and the Risk of Dimentian among Older People in Japan:JAGES Longitudinal Study
柳 奈津代、八木 明男、早坂 信哉、尾島 俊之
2)第84回日本温泉気候物理医学会「超高齢社会における温泉医学」総会・学術集会
プログラム・抄録集
高齢者の浴槽入浴頻度と抑うつ傾向発症との関連—JAGES縦断分析
The Association between Tub-Bathing Frequency and the Incidence of Depression among Older People in Japan: JAGES Longitudinal Study
八木 明男、早坂 信哉、尾島 俊之、柳 奈津代
3)横断研究と縦断研究 cross-sectional method / longitudinal method
http://dnpa.s3.xrea.com/psy46.htm
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