水の物理的要素による生体作用 — 奴隷貿易と食塩感受性③

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ボトルに入った香辛料 中央が食塩
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食塩感受性とアフリカ系アメリカ人の生存競争

塩分が高血圧の原因になることは広く知られていると思いますが、食塩感受性という言葉はあまり知られていないと思います。

この、「食塩感受性高血圧症」は本能性高血圧のひとつと考えられていて、人種による違いが認められていて、黄色人種である日本人と特にアフリカ系アメリカ人は塩分感受性が高いといわれています。

つまり、食べた塩分を体内にためておこうとする傾向にあり、食塩排泄能が弱いといわれています。

動物が、もともと海に存在し、進化の過程で両生類が上陸し、その際、水中にいた状態とは違う、空気中での体内の水分と塩分をどう保持するかが重要な問題でした。

ところが、現代では水分も塩分もいくらでもとれるので高血圧が問題になってきたのです。

現代の日本人の食生活でも塩分はとりすぎる傾向にあり、生活習慣病を防ぐため、減塩が推奨されています。

温泉療養では、このタイプの高血圧症に効果があることがよく知られているところの、その生体作用について詳しくご説明させていただきたいと思います。

概要

食塩感受性とアフリカ系アメリカ人の生存競争

目次
      1. 水浴と腎機能と水・電解質への影響
      2. 奴隷貿易での生存競争は食塩感受性が勝負だった?!

水浴と腎機能と水・電解質への影響

以下、現在、シリーズでお話させていただいている水の物理的要素による生体作用のお話のおさらいになります。

温泉は全身入浴の形で利用されることが最も多いので、水の物理的要素による生体作用が重要です。1)

(1)浮力
(2)静水圧
(3)水浴と腎機能と水・電解質への影響
(4)浴水温

水の物理的要素による生体作用 — 水は時を越える①

水の物理的要素による生体作用 — 水は時を越える②

こちらの、(3)について、今回は詳しくお話させていただきます。

熱くも冷たくも感じないで、生体機能の変化が最も少ない水温(不感温度、36℃前後)での水浴を長時間すると、尿量、尿中ナトリウム、カリウム排泄量が増加します。この水溶性水・電解質利尿には多くの因子が関わります。

ナトリウムは塩分と考えてください。

カリウムは、ナトリウム(食塩を構成する成分の一つ)とともに細胞の浸透圧を維持調整する働きがあるため、生命維持活動の上で欠かせない役割を担っています。

また、体に含まれている余計な塩分(ナトリウム)を体の外に出す効果があることから、血圧を下げる代表的な栄養素といわれています。

腎臓が正常に機能しているときは、多くのカリウムを摂取しても尿とともにカリウムが排泄されます。しかし、腎不全など、腎臓が上手く機能しなくなるとカリウム濃度が高くなり、高カリウム血症となります。2)

温泉療法における尿中ナトリウム・カリウム排泄量の増加は以下のようなメカニズムでご説明することができます。

①静水圧で末梢領域の血液が胸腔内に移動し、静脈還流が増加して右心房圧が増すと、この部のbarorecerone(圧受容体)を介して、renin – angiotensin – aldosterone系の分泌抑制が起こり、腎尿細管でのNa再吸収が減少する。

②右心房から心房性ナトリウム利尿peptide(hANP)の分泌増加が起こる。

③左心房圧が増加すると、Henry – Gauer反射で迷走神経を介して神経性刺激を脳下垂体後葉に送り、抗利尿ホルモンADHの放出が抑制され、腎尿細管での水再吸収が抑制されて水利尿が起こる。

④腎内prostaglandin増加、交感神経緊張の低下による腎内血流量が変化。Epsteinは水溶性Na利尿のメカニズムを図のように示しています。

一般的には、血圧が下がる⇒腎機能向上、という感じで、あとは、尿酸が低下し、浮腫(むくみ)がなくなる、体の老廃物排出されるという流れです。

全身水浴によるNa利尿作用のメカニズム(Epseinの図を改変)2)
全身水浴によるNa利尿作用のメカニズム(Epseinの図を改変)2)

最初に、動物は、もともと海で生活していたものが両生類に進化した結果、陸に上がり、体内の水分と塩分をどう保持するかが大事だったとお話ししましたが、そういった進化の昔の段階で大事だったのが、レニン、アンギオテンシン、アルドステロン系です。

心肺内受容体・心房性Na利尿ペプチドなど、この図に関係する分泌物は全て体内の水分と塩分を調整するためのホルモンです。

*レニン:腎臓から出るホルモン。
**renin – angiotensin – aldosterone(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系):血圧や細胞外容量の調節に関わるホルモン系の総称。2)
ご興味がおありの方は、参考文献をご覧ください。
***腎PG:PGはプロスタグランジン。血管を広げる作用があります。

奴隷貿易での生存競争は食塩感受性が勝負だった?!

ダイバシティ 円陣を組み親指を上げるしぐさをする白人アメリカ人男性とアフリカ系アメリカ人女性

奴隷貿易というと暗いイメージがありますが、今回のお話は、アフリカからアメリカにわたり、何世代にもわたって生存競争を勝ち抜くに至った、アフリカ系アメリカ人が食塩を体内に保持できるよう、形質を獲得した経緯についてご説明させていただきたいと思います。

つまり、アフリカを出て生き残った、勝ち組の黒人は食塩排泄能が低いということです!

現代においては、本能的に高血圧症になりやすいということでもあります。

アメリカの国旗を掲げる歴史的に古い船

アフリカ系アメリカ人は、アフリカ大陸から、水と食事を与えられない過酷な環境で船で運ばれてきました。

昔の絵で、白人が黒人の汗舐めて、しょっぱい黒人はアフリカに置いていく絵があります。

奴隷商人が汗の塩分濃度が低い黒人を優先して船でアメリカ大陸に運ぶ様子のイラスト

出典:Le commerce de l’Amerique par Marseille

奴隷商人は、汗の塩分濃度が低い黒人を優先して船でアメリカ大陸に運びました。

アフリカから大西洋を越えて船で米国に到着するにはかなりの日数がかかり、その間、十分な食事をとることができず、命を落とす黒人が多い中、死なずに生き残ることができたのは、少ない塩分で生きることができる黒人、つまり汗に塩分が少ない黒人であるということが経験からわかっていたのです。

そのため、黒人の汗を舐めて、船に乗せる黒人を選択していたのです。

米国に奴隷として運ばれた黒人の祖先は体内に塩分を蓄積しやすい人が選定されていたので、現在の米国黒人の「食塩感受性」が高くなったといわれています。

現代のアフリカ系アメリカ人のカップル

ナトリウムと水分を身体に貯留できる形質をもつものだけが、生存競争を生き延び、選択されてアメリカで生き延びていると考えられている。4)

これに対して、アフリカのサバンナでは塩の摂取が難しく汗をかく機会が多く、アフリカで育った黒人は体内に塩分を保持する必要が高かったため、ナトリウムを貯留する人が多かったと考えられている。4)

人類の進化で一番古い黒人は塩分調整がうまくできていません。白人やアジア系は進化しているといえますが、現在では、人種差別などの問題もあり、多少、センシティブなお話になりますが…。

アフリカ系アメリカ人に高血圧が多いのは、汗がしょっぱくない黒人を奴隷として連れてきたからということになります。アメリカの黒人は食塩を体内に貯めやすい黒人ばかりということになるのです。

塩分感受性は人種差があり、黒人は約80%、白人は30%、黄色人種はその中間といわれ、日本人は約半数が塩分感受性があるといわれている。4)

ドレッシングに少量の塩を加える動作

高血圧患者において、食塩摂取量が多い食塩感受性高血圧患者は、食塩摂取量の多くない患者と比べて心血管イベントリスクが高かった*。正常血圧では食塩摂取量と心血管イベントに関連はみられなかった。4)

*心臓と血管の病気の発生危険率のこと。具体的には血管がダメージうけて、狭心症、心筋梗塞など。

ご存知の方も多いかと存じますが、念のため、塩分を摂取すると血圧が高くなるしくみをご説明させていいただきます。

流れは以下のようになります。

塩分過多

⇒腎臓の交感神経活動が亢進される

⇒ノルアドレナリンの放出によりβ2アドレナリン作動性受容体が活性化される

⇒β2アドレナリン作動性受容体の刺激を受けて遺伝子の発現にかかわるタンパク質ヒストンの働きが阻害される

⇒塩分排出遺伝子の活性が抑制される

⇒腎臓でのナトリウム排出機能が低下して再吸収が生じる

⇒血液中のナトリウム濃度が上昇する

⇒高血圧が発症する

つまり、血圧が高くなる=血管内の圧力、心臓から流れる血液が血管を押す力が高くなることになります。

※効能は万人に対してその効果を保証するものではありません。

以上、今回はセンシティブなネタ、黒人の「食塩感受性」を例に高血圧症のしくみについてご説明し、血圧を下げる効果のある熱くも冷たくも感じない水温(不感温度、36℃前後)での水浴についてお話させていただきました。

次回は水の物理的な生体作用についてのご説明の最後、誰にでもわかりやすい物理「静水圧」の生体作用についてご説明させていただきます。

これからも、温泉療法医としての目線で、健康づくりに役立つ様々な温泉医学情報をご紹介していきたいと思います。

セルフメディケーションの時代、ぜひ、日常にお役立ていただけましたら幸いです。

本日はご訪問・ご拝読頂き、誠にありがとうございました。
今後とも、よろしくお願い致します。

参考文献

1)第4版温泉療法の手帖(2003)社団法人 民間活力開発機構 p.31-35

2)大塚製薬 栄養素から見た腎臓 〜腎由来のさまざまな血症 第2回カリウム

https://www.adpkd.jp/yomoyama/vol05_02.html

3)レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系 Wikipedia

4)食塩感受性高血圧 Wikipedia

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