入浴後のフルーツ牛乳、映画『テルマエ・ロマエ』を検証する
みなさんは2012年公開の日本映画、『テルマエ・ロマエ』をご存知でしょうか。
基本ギャグではあるものの、中には現代の医学でも推奨できる新しくローマに持ち帰った銭湯の習慣は「入浴後のフルーツ牛乳」です…。
以下、前回のおさらいになります。
温泉は全身入浴の形で利用されることが最も多いので、水の物理的要素による生体作用が重要です。1)
(1)浮力
(2)静水圧
(3)水浴と腎機能と水・電解質への影響
(4)浴水温
ローマ式浴場の設計技師である主人公が、現代日本の先頭にタイムスリップし、持ち帰った習慣は、こちらの「浴水温」の生体作用で説明が可能です。
前回のブログでは、(4)浴水温について以下のように簡単に触れました。1)
水浴による生体作用のうち温熱効果が最も重要で、末梢血管拡張による血流増加作用、筋・関節組織の柔軟化、鎮痛効果、代謝の亢進(高ぶり)などがあります。
ここまでのお話は前回もご説明させていただきました。
ここからは、体感でも理解はできるものの、無自覚なうちに危険な状況になりやすい生体作用のしくみについてお話させていただきたいと思います。
浴水温が42℃以上の高温浴では、入浴直後に急激な血圧上昇がみられることがあります。
皮膚知覚刺激が侵害刺激として交感神経系を刺激し、血中カテコールアミン(多くの神経伝達物質等、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン)が増加します。
出浴後も、
・強い発汗による血管内水分の喪失による血液粘土の増加
・交感神経系興奮による血小板凝集能や凝固能の亢進
・線溶能*の低下
があり、脳梗塞・急性心筋梗塞などの血栓症疾患が発生しやすくなります。
*凝固系(血液凝固因子)とは出血を止めるために生体が血液を凝固させる一連の分子の作用系であり、そうして固まった血栓を溶かして分解するのが線溶系(線維素溶解系)である。
「凝固・線溶系」出典:wikipedia
高血圧症、血栓症疾患、動脈硬化症患者さん、高齢者の方などでは、高温浴を避けるべきです。
この対策として、「入浴後のフルーツ牛乳」は効果があります。
映画では、浴場の中、浴槽の横に売店があり、ガラスの瓶に入ったフルーツ牛乳を紙のキャップを取り除いて飲むローマ人の姿がカメラに収まっています。
(主役の阿部寛の横にいたエキストラの様子だったと思います)
現代の医学的な観点からすると、入浴中あるいは浴後に、コップ1~2杯の水分とミネラルの補給が必要です。特にスポーツドリンクや、オレンジ、ミカンのようなビタミン、食物繊維が豊富で新鮮な果実をミキサーにかけた果汁がおすすめです。
映画に出てくるフルーツ牛乳は、日本の銭湯でローマ人が感動した通りに、果汁がたくさん入ったフルーティーな飲み物であるという前提になりますが。
ご参考までに、ご紹介します。
見逃すことはないくらい重要なシーンなのでご覧になってみてください。
一方、37~39℃の美温浴や温浴では、副交感神経系が優位となり、血液粘度が低下し、血小板の凝固能や凝集能の低下がみられます。
また、鎮静、催眠作用があるので、不眠の人は就眠前のぬるめの湯温での入浴が効果的です。1)
概要
入浴後のフルーツ牛乳、映画『テルマエ・ロマエ』を検証する
目次
時代を遡り、古代ギリシャ時代の考え方
古代ギリシャ人の水に対する考え方は独特で、紀元前5世紀の時代には、水の癒す力はその物理的特性にあると考えていました。
古代の医師のなかでも最も有名な、医学の父と呼ばれるヒポクラテスも現代と同じように温水浴と冷水浴を推奨しました。極端な温度には注意し、冷水には徐々に慣れる必要があることを条件に、冷水浴を重要視しています。
冷水を頭からかぶることが睡眠を促し、眼や耳の痛みを和らげる効果があること、「冷水を浴びるとそのあとに熱が生じる」という効果を記録した最初の人物はこの古代ギリシャ人の医師、ヒポクラテスです。2)
初代ローマ皇帝アウグストゥスを治療した医師
もっとも有名な冷水治療は古代ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスの侍医でバナナの学名MUSAの元にもなっている、アントニウス・ムサです。
「肝臓病」で苦しむアウグストゥス皇帝の健康を回復させたことが紀元23年に記されています。
他の治療がすべて失敗に終わったため、アントニウスはヒポクラテスの「反対の法則(冷水を浴びるとそのあとに熱が生じる)」に目を向け、冷水浴を繰り返し行うことをすすめたのです。
アウグストゥスはやがて健康を取り戻し、医術の神の隣にアントニウスの像を立てました。2)
当時の浴場はローマ人の社交の中心
ギリシャ人とローマ人は個人の衛生管理と健康との関連性を認識していました。2)
ローマ人の間ではこの認識がさらに高まり、やがて浴場が彼らの社交の中心となったのです。
ローマン・バス 出典:Wikipedia
ローマ式浴場には、
・温めた身体を浸す冷浴用のプールがある冷浴室
・やや温かい温浴室
・高温室か熱い浴槽
があり、設備は男女に分かれていました。
ローマン・バス 出典:Wikipedia
ヨーロッパでもっとも保存状態のよい浴場の1つで、広い循環式のプールも備えたローマ式浴場を、イギリスのバースで見ることができます。
バースでは紀元110年にローマの配管工が敷いた水道管に今も水が流れているのです。
※効能は万人に対してその効果を保証するものではありません。
以上、今回は人気映画「テルマエ・ロマエ」をはじめ、ギリシャ・ローマ時代の浴場と冷水療法、当時の入浴の文化についてお話させていただきました。
次回は、チャートや図解を使い、水の物理的な生体作用について詳細をご説明させていただきます。
これからも、温泉療法医としての目線で、健康づくりに役立つ様々な温泉医学情報をご紹介していきたいと思います。
セルフメディケーションの時代、ぜひ、日常にお役立ていただけましたら幸いです。
本日はご訪問・ご拝読頂き、誠にありがとうございました。
今後とも、よろしくお願い致します。
参考文献
1)第4版温泉療法の手帖(2003)社団法人 民間活力開発機構 p.31-35
2)THE SPA BOOK(2009)ジェーン・クレビン・ペイリー、ジョン・ハーカップ、ジョン・ハリントン 編訳(社)日本スパ協会 医学監修 伊藤悦男 p.8–9
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