温泉医学ブログ、2年目のご挨拶
令和2 年5月1 日、令和時代とともにはじまった当ブログ。
今日ではじまり、ちょうど1年になります。
https://onsendr.com/2019/05/01/reiwa-1st/
令和元年初日、ブログ始めます。
「平成」から「令和」に改元され、新天皇即位に日本中が浮かれていた去年が懐かしい…。
新型コロナウイルスによる感染症で100年に1度のパンデミック、東京オリンピック2020は延期…と日本の首都・東京にとって、試練の時です。
外出自粛に、温泉宿の休業、温泉医学ブログの筆者としては心配事だらけです。
今回は、自宅待機の時間を利用して、学生時代にハマっていた、近場の見直し「黒湯」の話から東京の天然温泉の宿、全般についてお話させていただきたいと思います。
概要
温泉医学ブログ、2年目のご挨拶
目次
Ⅰ. 東京の黒湯、モール泉について
①黒湯はほんとうに真っ黒!
②黒湯はなぜ黒い???
③火山性温泉・非火山性温泉とは何か?
Ⅱ. 東京の天然温泉 — 蒲田の黒湯
Ⅲ. 東京の温泉は療養泉には向いていない?
Ⅳ.北海道・東北のモール泉 十勝川温泉と青森県東北町の温泉郷
①青森県・上北さくら温泉
②北海道・十勝川温泉
③その他
Ⅴ.おわり
基本的に、「黒湯≒モール泉」とは何か。という疑問を持たれる方もいらっしゃると思います。当然すぎたらすみません。
平たく言うと、この「モール泉」とは、
「美肌効果のあるコーヒーやコーラのような黒い温水の非火山性温泉」です。
モール泉は、薄い色の温泉水もあり、必ずしも黒湯と呼ばれるわけではありません。
①黒湯はほんとうに真っ黒!
今回ご紹介するのは「東京の黒湯」。
これを手軽に体験できる銭湯の1つが「蒲田温泉」です。
蒲田温泉
http://kamataonsen.on.coocan.jp/
蒲田温泉は、蒲田駅から徒歩15分くらいです。
羽田空港からのアクセスの良さもウリです。
大田区のPRゆるきゃら「はねぴょん」は小脇に桶と水玉模様の手ぬぐいを抱えています。
はねぴょんの手元をよーく見てください。
桶の中が真っ黒ですね!!
これが今回ご紹介する「東京の黒湯」です。
そんなに黒い訳がない、と思われた方。
東京の黒湯は本当に黒いんです。
これが、蒲田温泉の温泉水です。
本当に真っ黒で、浴槽につかると足下は全く見えません。
②黒湯はなぜ黒い???
東京の黒湯は、「モール泉」の1種とされています。
このモールとはドイツ語で泥炭を意味します。
代表的なモールの成分は、
①まだ分解や発酵していない植物成分
②腐敗した植物成分
③腐食上や粘土になった成分など
その90%を水が占めるものもある。
モールの構成成分は、
①ペクチン、タンニン酸などの水溶性有機物
②瀝青(ベンゾールアルコール溶解性)
⇒これは原油とかコールタール黒い化石物質です。
③セルロース
④リグニン、フミン(アルカリ不溶性)などからなる。
1)温泉の百科事典(2012)阿岸 佑幸 p.253
この泥炭は、石炭になる前の状態の物質で、暗褐色、茶褐色を帯びています。
つまり、モール泉とは、モールを含んだ源泉のことであり、モールの色がそのままモール泉の色になっているんです。
しかも、東京周辺では、地表に近い部分にモール層があります。そのため、東京周辺の源泉には、モールに含まれているフミン質、土壌中の動植物の遺体が微生物の働きで、分解と重合を繰り返し生成した有機化合物の総称2)、が多く含まれており、しかも、このフミン質が空気との接触等によって、より暗褐色、黒褐色になっているため、「東京の黒湯」になります。
2)東京23区内の温泉成分と火山性温泉成分との比較による温泉医学的考察 矢野一行 日温気物医誌2013
以下、引用文ママです。
東京周辺の温泉は俗に「黒湯」ともよばれ、含まれているフミン質(腐植物質)により褐色を呈するものが多い。このフミン質は土壌中の動植物の遺体が微生物の働きで、分解と重合を繰り返し生成した有機化合物の総称2)
地表に近い層のモールは、空気との接触や植物の腐敗発酵現象で、色は暗褐色や黒褐色になり、フミンhuminが多い。1)
③火山性温泉・非火山性温泉とは何か?
火山性温泉が当然のように「温泉」と呼ばれるものと通常通りに使用しすぎていて、非火山性の温泉についてはあまり語られません。
2つの違いの定義は、
地下マグマを熱源とする火山性温泉か
火山とは関係のない地殻運動での摩擦熱や圧縮熱、あるいは放射性元素からの放出熱などの熱源による非火山性温泉1)
かの違いとなります。
東京の天然温泉は全てモール泉ではありませんが、非火山性温泉です。
前にお話した通り、大田区周辺の黒湯は地表近い部分の温水を源泉としています。
ただし、東京の他のエリアの天然温泉はもう少し深い層を源泉としているものもあるのです。
以下のグラフをご覧ください。
都内の温泉のナトリウムイオン、塩素イオンの含有量と深度別、関係を表した図で、注目していただきたいのは蒲田の黒湯とそれ以外の温泉の違いです。
ここでいう、東京の大深度掘削の源泉の温泉、Hot spring with deeply dug, とは1000m 以深の日帰り入浴施設で使用される天然温泉のことで、表は成分濃度を示していますが、そのお話はまた今度。
ひとまず、違いをご認識いただければここではOKです。
大体、これくらいです。しつこいくらいでしたかね?
温泉医学や温泉水については、まだ、詳しくわかっていないこともたくさんあります。
大田区周辺の黒湯は、日本の黒湯の本家大元、十勝川温泉ほどタールや油分・油膜などはないさっぱりした泉質で、色は黒、匂いもなく、とろみがあり、ぬるっとした質感でお肌もつるつるになる美肌の湯で冷めにくいということでした。
Ⅱ. 東京の天然温泉 — 蒲田の黒湯
庶民の銭湯に東京では一部、モール泉が使われています…、え、意外?
草津や別府のジモ専ほど縛りはキツくありませんが、比較的、地域住民の皆さんばかりなのですけど、遠方から足を運ぶ、ファンの方々や外国人の観光客も多く訪問するそうです。
高級どころでは、黒湯ではないけれど、椿山荘(文京区)、水月ホテル鴎外荘(台東区)、ご紹介した蒲田温泉を含む大田区の銭湯などがあります。
こういった黒湯を体験できる銭湯についてのレポートや紹介ブログはたくさん存在するので、ご興味のある方はぜひお近くの銭湯を探して、体験してみてください。
東京の高級ホテルの天然温泉は温泉医学・温泉療法の知識には直接関係ないので経験したことはありません。節約路線ですし。しかし、都内のさまざまな温泉の泉質調査をした論文の中には黒湯以外の情報もありますので、別の機会にご紹介します。
今回、この記事を書くついでにSNSなどで確認したところ、地方の温泉好きの方々は東京の黒湯をよくご存じなのに、東京に住んでいる人はあまり知らない、まさに灯台もと暗し、という印象を受けています。
東京の黒湯は、ぜひご訪問いただきたい日本が誇る温泉のひとつです…。
撮影には許可が必要です。事前に電話して、朝から。などが裏技で、この道の温泉活動家の方々はみんなご存知だと思うのですが、むやみに湯船や入浴中の近隣住民の方などを写真撮影しないようにしてください。
たとえば、先日、再訪した前述の蒲田温泉です。
プール程度の温水程度の水温でも入浴に十分です。
蒲田温泉のオーナーさんから話をうかがうことができました。
創業は昭和12年。
甘露寺先生や温泉医学のお話をしたところ、甘露寺先生は学会論文を書くために蒲田温泉へご訪問されており、泉質分析も先生にご依頼されていたそうです。
嬉しいですね。(当ブログとしては)
知っていても、真っ黒なお湯は珍しくて、テンションが上がるのです。
ひさしぶりに行くとやはり楽しかったですね。
東大の学生時代と言えば、一般的に「駒場」「池袋」が下宿先のメジャーです。家賃が安いから。池袋は本郷から遠いように見えて、地下鉄で通いやすい。
というわけで、神奈川まで行くことも探求心ゆえにあったものの、家の近所の天然温泉の銭湯によく通っていました。昔の知識はあるけど、なくなった銭湯もたくさんあるんじゃないかな?と思います。
銭湯・温泉アカウントの先輩方はすでにたくさんの投稿をされている様子の蒲田温泉。
どうぞ、近くまでお立ち寄りの際にはご訪問ください。
Ⅲ. 東京の温泉は療養泉には向いていない?
東京の温泉は「療養泉に十分、もっと活用しよう。」という論文と「向いていない」とする論文があります。
前者は、企業・営利団体の利害が絡んでいるような…。
私は後者の方が純粋な考察のように感じたので、軽くご紹介したいと思います。
東京23 区内の温泉はいずれも非火山性温泉であるので、火山性温泉に特有の硫黄化合物や二酸化炭素のような薬理作用の知られている成分の含量は少ない。また、これらの源泉の温度が低いため入浴には加温する必要があり、湧出後のこれらの操作による温泉成分の劣化は避けられない。
さらに、大都会の真っただ中にある東京の温泉に熱海温泉のタラソセラピーや鳴子温泉の森林浴のような環境因子(自然・気候)の変化によってもたらされる変調効果を期待することにも無理がある。
温泉の医学的効果の本質は、活性酸素の産生を抑え、その働きを抑制するとともに、活性酸素等によって傷んだ組織を修復し、修復不能の細胞は分解・除去することで、健康を取り戻すことにあると考えられる。これらの点からして、東京の温泉にはそれなりの癒し効果はあるものの古くから知られている火山性温泉のような医学的効果を期待することはできない。1)
薬理効果の側面は次回以降に。肯定派の主張と合わせて、一般的に知っておいてもよいことを簡単にブログします。
Ⅳ. 北海道・東北のモール泉 十勝川温泉と青森県東北町の温泉郷
①青森県・上北さくら温泉
青森県のモール泉といえば、上北さくら温泉。ここは、出張ついでに2-3回宿泊しています。
上北町駅から歩くことも可能ですが、送迎もしてもらえるのが魅力…役所の並びにある街中の「温泉旅館」です。口コミにも、近所に出張に来た際にはぜひ。と、どなたか書いていたような…。
ひとまず、こちらではこの投稿の後、すぐにいろんなご意見を頂きました。
いろいろお話を聞かせて頂いたみなさま、ありがとうございました。
基本、地元の銭湯兼温泉旅館の上北さくら温泉ですが、この辺りは東北のモール泉の源泉が集まっています。
昨年夏の例年恒例・東北出張旅行に1週間程度周辺の温泉巡りをした際の立ち寄り場所のひとつ。青森県東北町の上北町駅周辺に広がる温泉郷の一角です。
これは、東北町(とうほくまち)の公式サイトです。
情報量はバッチリですね。「モール温泉おがわら湖温泉郷」が正式名称のようです。http://www.town.tohoku.lg.jp/kankou/onsen.html
こちらが「上北さくら温泉」。
こちらのモール泉はお肌がつるつるになりますが、東京の黒湯より色は薄いです。
②北海道・十勝川温泉
大元、というか、古くからモール泉として知られているのは北海道・十勝川温泉。
かなり昔、20世紀初めには、モール泉というと、こことドイツのバーデン=バーデンにしかありませんでした。大変珍しい、黒湯、石油みたいな色ですよね、油が浮いていて。
何度も訪れいているのですが、撮影していなくてブログ用の画像がなく、Wikipediaより引用しています。
③その他
東京でモール泉に入浴できるようになったのは最近の温泉掘削技術の発展による恩恵です。温泉療法医になるきっかけの一つに学生時代の黒湯に対する興味は重要で、どうしてか、温泉の魅力を探るうちに、歴史とその正体を知りました。
知らない間に他のエリアでもモール泉を楽しめるようになったようで、Twitterのフォロワーさんには四国の愛媛・八幡浜にも温泉があることを教えて頂きました。
次回以降では黒湯以外の都内の天然温泉と非火山性温泉の療養泉としての価値のようなものをご紹介させていただきます。
Ⅴ.おわり
本日は、当ブログ1周年、外出自粛期間ということで、東京の、庶民のための黒湯銭湯についてお話させていただきました。
これからも、温泉療法医としての目線で様々な温泉関連情報をご紹介していきたいと思いますので、また、お立ち寄りください。
本日はご訪問・ご拝読頂き、誠にありがとうございました。
今後とも、よろしくお願い致します。
1)温泉の百科事典(2012)阿岸 佑幸 p.253
2)東京23区内の温泉成分と火山性温泉成分との比較による温泉医学的考察
矢野一行 日温気物医誌2013;76:p.207-214
3)東京都23 区内の温泉と期待される温泉医学効果
前田真治,市川勝,原麻理子,櫻井好美,他 日温気物医誌2011;74:p.246-255
Leave a Reply