草津温泉の特殊性と健康増進 — 三代目布施医院院長のお話

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草津温泉 湯畑

草津温泉布施医院院長と倉林先生の先日の講演


先日の温泉療法医の研修は布施正博先生(三代目布施医院院長)による草津温泉のお話でした。

あまりのタイミングの良さに、誰かが見ていて、私にネタをくださったのであろうか…と思わずにいられません。自意識過剰目に今回は行きたいと思います。

というのも、草津温泉については是非当ブログでも取り扱いたいと考えていて、時間湯や英文資料を揃えていたのですが、ずっと何か決め手がない…、と感じていたのです。しかし、布施先生の話は、これを払拭しました。

研修では、草津温泉の重鎮お二人の400-500文字の書き物が資料として配られました。分量はA4一枚だけですが、とても濃い内容が要領よく簡潔にまとめられています。

そこで、今日は、布施先生からお聞きした内容も踏まえて、草津温泉に関する観光だけでは知りえない幅広い知識を歴史・地質学・医学の側面からご紹介させていただきたいと思います。


Ⅰ. 草津温泉の特殊性と健康増進

草津温泉中心地

草津温泉は、日本三大名泉として有名であるが群馬県北西部に位置する小さな温泉町である。歴史は古く日本武尊による発見伝説があり、室町時代にはすでに湯治場として栄えていたと記録されている。戦国時代には傷を癒す特異な泉質から武士に好まれ、江戸時代には温泉番付で東の大関に君臨し人気を博していた。江戸後期には高温浴が好まれ、明治初期に時間湯という特殊な入浴法ができて賑わったが、西洋医学の進歩とともに湯治客は減少し現在では観光入浴が主体となっている。
温泉療法の研究は明治11年ベルツ博士によって始まり、明治26年にはドイツで草津温泉療法を発表し世界的に脚光を浴びた。昭和7年から東京大学物療内科による研究が始まり、昭和26年に群馬大学医学部付属草津分院に引き継がれ数々の業績をあげたが、 平成14年に閉院され公的機関の研究は途絶えてしまった。
本講演では、少し歴史を辿りながら多数の高温酸性泉が狭い地域だけに湧出し、同じ酸性泉でありながら2種類の泉質という特殊性と、間違えた認識をされている伝統的特殊入浴法「時間湯」について解説し、今後、草津温泉の湯治の湯治が健康増進に寄与するために必要な課題に触れたいと思う。1)

布施病院沿革
http://www.fuseclinic.jp/doctors-guide/history.html

Ⅱ. 草津温泉 — 湯畑源泉と万代鉱

白根山湯川

今回の講演で布施先生は、湯畑源泉万代鉱をメインに取り扱い、地質的なお話から歴史、東大物療内科の研究者に医院の施設を提供していた頃からの初代・布施医院院長の功績をさりげなく漂わせるところまで、何も知らない人に草津温泉の意義を伝えるお話をされていました。

以下では、私なりに草津温泉の知識を整理してみたいと思います。

① 草津温泉は群馬県北西部にある小さな町

群馬県にある草津温泉の温泉地自体は非常に狭い地域に密集しています。

近くには万座温泉四万温泉苗場スキー場・志賀高原があり、長野県の県境付近は一大観光エリアとなっていて、草津温泉自体の他にも見どころが多い観光地の一角です。

草津温泉アクセスマップ
https://www.kusatsu-onsen.ne.jp/pamphlet/06_Map.pdf

② 草津温泉最大の特徴

草津温泉は自噴量が日本一です。

湯量は正確に測定されていて、32,000l/分だそうです。

つまり、1分で2lのペットボトル1万6000本分が満タンになる量が湧いているということになります。

この湧出した温泉の半分は未使用のまま湯川に流されているのです。なんだかもったいないですね。

詳細はこちらをどうぞ。
https://onsenbu.net/7635
温泉湧出量の多い湧出地ランキングTOP5

③ 源泉と泉質

白根山噴火の堆積地質である凝灰角礫岩が湯川による侵食作用により地表に露出しているため、隙間が多く、温泉が湧き出る古来からの草津湯畑源泉は51℃2.1pH 硫化水素・硫黄泉新しい万代鉱は96℃ 1.6pHと他の源泉と合わせて今は6つの源泉がメインとして温泉利用されています。

おおよその内容がわかる参考URLです。
http://www.kusatsu-onsen-yado.jp/aboutspa.html
草津温泉の主な源泉と特徴

ちなみに、草津温泉の特徴としてよく言われているのが強酸性
1.0pHで胃酸程度、2.0pHではレモン果汁程度の酸味と言われています。
身近な物質のpH一覧についてはこちらをご覧ください。

身近な液体のpH(Wikipedia)

草津温泉で有名なのは、その強酸性から殺菌力があるということです。
本来何十万個も細菌が出るところの、草津温泉の温泉水では多くて50個くらい。

ただれは2ヶ月半くらいで治り、アトピー、乾癬が治ることを期待し、湯治に来られる方が多いことで有名です。

④ 時間湯

草津温泉の伝統的な温泉療法で有名なのが、時間湯です。

ご存知の方も多いかとは思いますが、簡単にご説明すると、時間湯とは温水療法の総合的生体調整作用を利用する高温浴のことです。

草津温泉で江戸時代から続く伝統ある入浴法で、48℃~52℃という高温に、数分間入浴するというものでした。
過去のブログでもご紹介したように、高温浴によって脳内麻薬のような物質、β-エンドルフィンが増加します

こちらのブログの冒頭でご説明していますので、ご興味お持ちいただけましたらご覧ください。

浴水温が42℃以上の高温浴では、入浴直後に急激な血圧上昇がみられることがあります。高血圧症、血栓症疾患、動脈硬化症患者さん、高齢者の方などでは、高温浴を避けるべきです。

ここでいう、「でした」というのは、時間湯は安全上の理由から廃止されてしまったからです。
48℃~52℃というと、ほぼ熱湯です。
普通に考えて、入浴するには高温すぎるものの、時間湯の入浴法を実施してみると耐えられる範疇だったのではないでしょうか…。

高温浴は廃止されてしまったものの、今現在も公衆浴場の「地蔵の湯」で時間湯の入浴法を体験することが出来ます。

といっても、今は42℃に設定されていて、ちょっと熱めの温泉、というだけになってしまっています。
(以前は47℃に設定されていたそうです)

時間湯に関しては、参考になる論文もいくつかあります。

尤も…、知られていないし、昨年の時間湯廃止騒動の最中もインターネットの言説上はどこにも記載されていなかったのですが、安全上の理由から時間湯を改革すべきという主張を行ったのは、布施医院だったのです。

布施医院は、当時行われていた50℃を超す時間浴の危険性を指摘し、1日4回、3分、48℃、を提唱したそうです。

時間湯ほどの高温浴は万代鉱や沸かし湯では熱さを感じて入れない。しかし、地蔵源泉「地蔵の湯」では、撹拌によりコロイド形成するため、入浴できると言われています。

コロイド形成で熱さを感じないことに関して、説明は特になかったのですが、多分粒子径が大きくなるから、ブラウン運動の速度が遅くなるのかな?と想像しました。

たぶん、粒子が体に当たる分子速度が遅くなるから。という理由じゃないかと思います。

温泉医学は、物理と化学の知識が必要なのですが…。さらっと、ここでは詳細解説を流してしまうことにします。
ここも、時間湯廃止についての言論の流れの中で誰も語っていなかったと思います。

ここでいう、「撹拌」つまり、「湯もみ」は講談家・桂燕玉が遊びで始めたものが広まったといわれています。草津温泉には「ゆもみちゃん」というキャラクターもいて、草津温泉の代名詞のようになった湯もみの発祥は遊びだったわけです。

熱い源泉を冷ますのは、伝統的には絶対ではない、ということを知りました。
(草津温泉ファンの方々には当然だったかも…)

以上、時間湯廃止の大騒ぎから約半年。渦中の草津温泉の地元で温泉療法の研究を続けられ、100年にわたり関わってきた布施医院の三代目院長の含蓄深いお話でした。


Ⅲ.温泉と温泉療法医の意義

研修では、倉林先生から「温泉浴による免疫・血流反応と脳血管病変」という温泉医学の概要のお話もありました。この資料の最後には、

温泉の医学作用を適切に指導し健康増進を啓蒙する療法医の役割は大きい。2)

とあり、倉林先生の長いキャリアに裏打ちされた言葉の重みを感じたのは私だけではないはずです。
倉林先生は元々、群馬大学医学部附属病院草津分院で講師をされていて、温泉医療に関する論文もいくつも発表されています。本ブログでまたご紹介させていただければと思っています。)

温泉と温泉療法医の役割は大きい…と感じながらも斜陽産業の温泉観光と高齢化・衰退の一途をたどる温泉医学。自分ができることとして、微力ながら、興味を持っていただける方々のために情報を公開・ご紹介していきたいと思います。

本日は、当ブログにご質問いただいた「草津温泉とは?」といった内容に、温泉療法医の立場で、先日のセミナー内容を踏まえてご紹介させていただきました。

温泉療法医による温泉医学ブログである、本ブログでは、観光寄りの情報としてはかなり不足していると思いますので、どうぞ、他のサイトもお調べください。

温泉医学的な側面からの草津温泉についてご興味をお持ちいただくきっかけになれば幸いです。

今回の草津温泉の知識に関しては、温泉療法や歴史をご紹介されていた先生のお話に基づいています。研修の講演後、補足説明を加え、温泉医学の知識面のお話をさせていただきました。

今後もいくつか続いて草津温泉についてご紹介する予定ですが、何か疑問などございましたら、ご質問いただければ、お答えできる範囲でこちらのブログ内で記事として回答していきます。

どうぞお気軽にご質問お寄せください。

これからも、温泉療法医としての目線で様々な温泉関連情報をご紹介していきたいと思いますので、また、お立ち寄りください。

本日はご訪問・ご拝読頂き、誠にありがとうございました。
今後とも、よろしくお願い致します。

1)温泉療法医研修会テキスト 有限責任中間法人日本温泉気候物理医学会
  草津温泉の特殊性と健康増進 布施医院 院長 布施 正博

2)温泉療法医研修会テキスト 有限責任中間法人日本温泉気候物理医学会
  温泉浴による免疫・血流反応と脳血管病変
  埼玉医科大学医学部リハビリテーション医学講座 教授 倉林 均


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